耳/秋葉竹
 
 

駅のまえのバス停で
十人のひとがバスを待っている
ひとりをのぞきスマホをみている
孤独な海の底を
覗きみるような顔で

さざなみがうちよせるかなしみのように
九人の足もとをゆっくりと浸してゆく

夏だけがまだ
ゆっくりと残っていた

ひとりは
バスがいつかはやって来る方向をみている
しあわせを待つような生き生きとした瞳で

人生ってそのひとみたいに
ちいさな波紋になれるといいな

み逃しつづけたやさしい風の音が
ようやくみることができるころ
際限なくつづいていた
閉ざされた生きる意味の秘密なんてのも
ファイトを持てば知ることができるのさ

[次のページ]
戻る   Point(3)