殴音/中沢人鳥
 
夕焼けの跡に焦げた鳥の形
喉の鬱陶しい痛み
弾ける炭酸の飴を途中で吹き飛ばして
走っている今は
夏か冬か、朝か夜か
苛々したままロックをききゃあいいじゃん
とロックスターが言っていた
確かにそうかもしれない
でも今は苛々しているんだ
ただ黙れ
透き通る女声の響きが劈く慟哭に変わる
綺麗だ、、 、  、   、    、    、
そんなことはない
そういえば
人を殴ったことなどないと思う
別にその人が可哀想だからではない
靴紐がほどけたまま
思い出の顔を踏んづけて進む
「大丈夫?」って誰かが言った気がして
笑った。歯茎から血の味がした
信号が青でも、渡らない
赤でも、走り出さない
選ばない、ただ風になる真似だけする
公園の滑り台で膝を焼いたのは何歳だっけ
誰かの声で、心臓が少しだけ跳ねた
炭酸の粒みたいに、過去が喉を弾いて
ひとつひとつ、痛い音で爆ぜた
うん、それでも
たぶんまだ、誰も殴ってない
この世界が殴ってくるだけだから
戻る   Point(3)