虫。/田中宏輔
コンコン、と
ノックはするけど
返事もしないうちに
入ってくるママ
机の上に
紅茶とお菓子を置いて
口をあけて
パクパク、パクパク
何を言ってるのか
ぼくには、ちっとも聞こえない
聞こえてくるのは
ぼくの耳の中にいる虫の声だけだ
ギィーギィー、ギィーギィー
そいつは鳴いてた
ママが出てくと
そいつが耳の中から這い出てきた
頭を傾けて
トントン、と叩いてやると
カサッと
ノートの上に落っこちた
それでも、そいつは
ギィーギィー、ギィーギィー
ちっとも
鳴きやまな
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