祈祷歌/森 真察人
《最も穢(けが)れた山の頂において おれは神をも殺す》
この脳は霧に侵された
この脳は血に潰された
この脳は胞に乱された
汚辱のこれの液が睫毛(まつげ)をつたい硝子(ガラス)の瑕(きず)を流れる
この脈より素早くおれは駆け降りる
《おれに犯されたい と思っただろう》
襤褸布(ぼろぬの)の少女は今春 タイから帰った
その作られた岸のうえで
折られた左の腕をぶらりと垂らし
瞋(いかり)を絶えず叫びながら
自らをおれの友だと言い張る
おまえをしかしおれは愛さねばならぬ
いつかおまえを突き落としたのはこのおれの眼であった
砂から星までの美をひとつずつ析(わ)け
あらためて合わせたとき現れるその穴に
おれはこのおれの眼を
突っ込み掻き回したのだ
厭(いや)になるまで辱(はずかし)めておれは
とてつもなく高いところまでおれを罰したのだ
〈神は分解されない〉
脈の絶えるところ ついにおまえに屈することが
おれを雪(すす)ぐことはない
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