宙也くん/おやすみ
オンボロ単車にまたがって
宙也くんが行く
なぜブンガクなの?
匂いが好きだからさ
降り続く雨の匂い なまぬるい夜風の匂い
捨てられた仔猫の匂い 拾い上げた銀貨の匂い
ダンスホールの椅子の匂い カビ臭い詩集の匂い
安いブランデーの匂い 裏切りと涙の匂い
火薬の焦げた匂い 真っ赤なペディキュアの匂い
すべてのものには匂いがあるだろ?
オレは文学そのものじゃなくて
ブンガクの匂いが好きなのさ
悲しくて 孤独で ぼろぼろで
破滅的で 暴力的で 溺れてて
それでいてロマンティックで
愛おしい血と詩の匂い
ふぅん、そうなんだ
それはさ、宙也くんの匂いでもあるよね
そうかな
そうだよ
ひとりで死ぬ気でしょ?
誰だって死ぬさ
群れから離れた海鳥のように
青い海岸線を南下する
もうすぐ春だね
私だって
宙也くんの匂い好きなんだけどな
さらってくれてもいいんだよ
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